おはなし
かさじぞう
虎渓山のふもとの小さぁ村に、貧乏なおじいとおばあが仲よお暮らあてりゃあた。おじいは、まぁにち、すげ笠、編むとや、町ぃ売りに行って暮らしとらした。
おおみそかの前の晩がた、
「のお、おばあ、すげ笠が五つばかできたで、あした、町ぃ売りに行って、正月の餅に換えてくるわ。らぁねんこそ、うまぁもん食べて正月むかえよまぁ」
おじいが言わすとさあが、おばあは
「ほんなら 楽しみにまっとるわな」
っちって、どえらあよろこばした。
次の朝、おじいは、きんのう作らしたすげ傘しょって、でかけていきゃあた。
町ぃ行くと、正月のまわしせる人ばっかやった。
門松やら酒やらは、飛ぶように売れよおったに、
「笠やあ~笠やあ~すげ笠は、いらんかのお~」
ほお言ってよばってまわっても、おじいの笠は、ひとっつも売れへなんだ。
まあはあ日が暮れて、雪がよおけ降ってきたもんで、おじいは、しやなあなぁってって まぁおぉて、うちぃ帰って行かっせた。
帰り道、いっつも見とる六体の地蔵さんの並んどるとこまでこさすとさあが、気の毒に 地蔵さんたあ、頭に雪が積もっとって、ぶるぶる震えとらした。
「ええ~、地蔵さま、雪まるけんなって、こりゃさっぶぅやらあ」
おじいは、ほお言って、雪はらっちゃあ、ひとつつ、売れなんだすげ笠をかぶせたげやあた。
ほやけど、最後の地蔵さんの分が たらなんだもんで、おじいは
「のお、じぞうさま、わしの笠でゆるぅてえか。」
っちって、自分のすげ笠を最後の地蔵さんにかぶせたげやあた。
ほうして、自分は頭によおけ雪かぶって、おばあがまっとる家に帰ってこさした。
おじいは、ごっつおぉ買えなんだってって、地蔵さんたあの話、しやあた。
ほうせるとさあが、おばあは
「ほりゃええことしやあたのお。すげ笠があっても、食べれえへんで、地蔵さまにやってよかったのお。ほれよりおまはん、頭が冷えるで はよ、雪、落さなかんわ」
っちゅうと、おじいの頭をふぅてやらした。
ほういうわけで、おおみそかの晩も、いつもとおんなしように、梅干と麦飯ですまあて、ちゃっと寝ちまわした。
元日の明け方の時分、なんやら遠おとっから かけ声が聞こえてきよった。
「えっこらせ どっこらせ」「えっこらせ どっこらせ」「えっこらせ どっこらせ」
「なんや?そりひきか?」「どやしらん。正月にそりひきっちや、なんやろおや?」
寝床でほう言よおるうちに、かどのほうでなんやら音がしたもんで、二人で、そろおとのぞぉてみやあた。
ほおせると、かどに、米やら魚やらだぁこやら餅菜やら、ほれに見たこともなぁような大判小判やらが、ぎょおさんすえたったもんで、おじいとおばあが びっくりこぉて、あたりを見てみやあすとさあが、先のほうに、すげ笠かぶったゆんべの地蔵さんたあが、ゆっくり山登って帰っていきょおらっせるのが見えた。
ほんで二人は、たぁんとごっつぉおよばれて、正月を迎えさっせたげな。
(2014年9月「お月見の会」(こけいざん森の家)において、琴・尺八の演奏付きで朗読された昔話です。その際のアンケートを反映して、改訂しています。)